Project 1 「神経回路構築メカニズムの解析」

我々の外界の刺激に対する判断や行動は、脳に存在する神経細胞が織りなす神経回路によって担われています。当研究室では、マウス嗅覚神経回路をモデルとして「神経回路がどのように形成されるのか」、そして「その神経回路がどのように情報を処理し、様々な行動が引き起こされるのか」について細胞レベルで理解することを目指しています。 古くから “nature or nurture(氏か育ちか)” といわれるように、神経回路はもともと個体に備わっている遺伝的要因と生後の環境刺激に基づく経験によって形作られその機能が発揮されます。我々は、分子生物学的手法により遺伝子を、電気生理学的手法により脳に与える環境刺激を観察、操作することを通じて、両者の協奏メカニズムを解き明かし、神経回路の形成と機能発現を支える基本原理の解明を目指します。


Project 2 「神経活動記録・操作による匂いの知覚メカニズムの解明」

私たちは常に外界からの刺激を受容し、その情報を処理することで自らの行動を選択しています。また、同じ刺激であっても自らの経験やその時々の内的な状態等に基づいて選択する行動は絶えず変化します。当研究室では電気生理学およびカルシウムイメージング法を用いて単一細胞のレベルで神経活動を観察し、外界刺激に対する応答が状況や経験に基づいてどのように変化するのかを検証しています。さらに神経回路トレーシング法を組合わせることで、そのような変化が生じるメカニズムを神経回路レベルで理解することを目指します。一方で、神経活動の観察だけではその時選択した行動等との相関関係は検証できますが、因果関係までは問えません。そこで、光遺伝学手法を用いることで特定の神経回路が特定の行動等に実際に必要かつ十分であるのかを明らかとしていきます。これら手法を組合わせることで、私たちが匂いを知覚しそれにより情動が変化しそして記憶として貯蔵される、これら一連の過程がどのように生じているのかという嗅覚の本質的な問いに神経活動というレベルで答えを出していきます。


Project 3「嗅覚を用いた革新的な診断・予防・疾患修飾療法の確立」

嗅覚はアルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとした様々な神経疾患において初期に障害が生じることが知られています。実際に嗅覚障害で死亡リスクが1.5倍になるというコホート研究のメタ解析結果もあります。このことは嗅覚入力が様々な神経疾患の予防や治療に有用であることを示す直接的な根拠とはなりませんが、古来から様々な匂いにリラックス効果や抗うつ効果があることが示唆されており、特定の匂いが神経疾患の予防や治療に有用な可能性があります。しかし、これまで神経疾患モデルに対して長期間特定の匂いを暴露し、その効果を検証した研究はほとんどありませんでした。当研究室では数十種類の匂いを同時進行で長期間マウスに暴露する系を独自開発し、様々な匂いが神経疾患に与える影響を複数の行動試験を用いて網羅的に検証します。また、効果が認められた匂いに関しては分子生物学および神経生理学的手法を用いてその神経メカニズムの解明を目指します。